リーダーシップと一口に言っても、そのスタイルはさまざまです。
あるリーダーは明確なビジョンを示してチームを導き、また別のリーダーはメンバー一人ひとりの成長を支援します。
中には、厳格な指示で組織を動かすリーダーもいれば、メンバーの意見を尊重して合意形成を重視するリーダーもいます。
心理学者であり、感情的知性(EQ)の重要性を提唱したダニエル・ゴールマンは、リーダーシップのスタイルを6つに分類しました。
- ビジョン型:明確なビジョンを示し、人々を鼓舞する
- コーチ型:部下の能力開発を重視し、個別の指導を行う
- 関係重視型:チームワークを重視し、人間関係を構築する
- 民主型:部下の意見を尊重し、合意形成を図る
- ペースセッター型:高い目標を設定し、自ら模範を示す
- 強制型:指示命令を重視し、即時的な成果を求める
これらのスタイルに「正解」はなく、状況や組織の文化によって最適なリーダーシップの形は変わります。
たとえば、急成長を目指すスタートアップではペースセッター型のリーダーが求められるかもしれませんし、危機的状況にある組織では強制型のリーダーが必要になることもあります。
本記事では、映画の中に登場するリーダーたちを例に挙げながら、これら6つのリーダーシップスタイルの特徴を解説していきます。
スクリーンの中のリーダーたちがどのように人々を導き、組織を成長させていくのかを見ていきましょう。
6つのリーダーシップスタイル
リーダーシップにはさまざまなスタイルがあり、それぞれ異なる強みと適した状況があります。
ここでは、ダニエル・ゴールマンの提唱する6つのリーダーシップスタイルを、映画の登場人物とともに紹介します。
①ビジョン型リーダーシップ
「明確なビジョンで人を導く」

ビジョン型リーダーの特徴
ビジョン型リーダーは、明確な未来像を提示し、人々を鼓舞して導く存在です。
このタイプのリーダーは、組織の方向性を示し、大きな変革を推し進めることができます。
従業員やメンバーが「なぜこの目標に向かうのか」を理解できるため、モチベーションが高まりやすいのが特徴です。
『マネーボール』(2011年):ビリー・ビーン
メジャーリーグのオークランド・アスレチックスGM(ゼネラルマネージャー)のビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、資金力のないチームを強くするため、従来のスカウティング方法を捨て、データ分析(セイバーメトリクス)を用いた選手獲得戦略を採用します。
周囲の反対を押し切りながらも、彼の革新的なビジョンはやがてチームを歴史的な連勝へと導きます。
ビリー・ビーンのリーダーシップ

出典:マネーボール
- 革新性:従来の常識を打ち破る新しい手法を導入
- ビジョンの共有:チームに「なぜこの方法が成功するのか」を説明し、共感を得る
- 逆境への対応力:批判や困難があっても、確固たる信念を持ち続ける
ビリー・ビーンのようにビジョン型リーダーは、大きな変革を推進する場面で特に効果を発揮します。
ただし、最初は周囲の理解を得にくいことが多いため、ビジョンを共有し、粘り強く説得する力も必要になります。
②コーチ型リーダーシップ
「部下の成長を促す」

コーチ型リーダーの特徴
コーチ型リーダーは、個々のメンバーの成長に焦点を当て、指導やフィードバックを通じてスキルアップを支援するスタイルです。
ただ指示を出すのではなく、相手の長所を伸ばし、自己成長を促します。
そのため、部下の育成や長期的な成果を重視する場面で特に効果的です。
『最強のふたり』(2011年):フィリップ
大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、事故によって首から下が麻痺し、介護を必要とする生活を送っています。
そんな彼が、型破りな介護人ドリス(オマール・シー)を雇ったことで、人生が大きく変わります。
ドリスはフィリップに対等な視点で接し、彼が失いかけていた人生の楽しみを取り戻すきっかけを与えます。
一方、フィリップもドリスの可能性を信じ、彼が成長できるよう導いていきます。
フィリップのリーダーシップ

出典:最強のふたり
- 個々の強みを引き出す:ドリスのユニークな視点やエネルギーを尊重し、活かす
- 挑戦する機会を与える:ドリスに責任ある役割を任せ、自己成長を促す
- 信頼関係の構築:権威的に接するのではなく、対等な関係を築くことで信頼を得る
フィリップが行ったようなコーチ型リーダーシップは、個々のメンバーの成長を重視する職場や、人材育成が重要な組織で特に有効です。
このスタイルのリーダーは、短期的な成果ではなく、長期的な成長を見据えて関わることが求められます。
③関係重視型リーダーシップ
「チームワークを大切にする」

関係重視型リーダーの特徴
関係重視型リーダーは、チームメンバーとの良好な関係を築くことを最優先に考えるスタイルです。
心理的安全性を確保し、メンバー同士の信頼関係を深めることで、組織全体の協力を促します。
このタイプのリーダーは、チームの結束が重要な場面や、メンバーのモチベーション向上が求められる環境で特に有効です。
『タイタンズを忘れない』(2000年):ハーマン・ブーン
1971年、アメリカ・バージニア州では、高校のフットボールチームに黒人と白人の選手が混在することが初めて試みられました。
黒人のヘッドコーチ、ハーマン・ブーン(デンゼル・ワシントン)は、対立する選手たちをひとつのチームにまとめるという困難なミッションを担います。
彼はチームワークを最優先し、互いの違いを乗り越えて結束するよう導いていきます。
ハーマン・ブーンのリーダーシップ

出典:タイタンズを忘れない
- 心理的安全性の確保:人種間の偏見を乗り越え、互いに意見を言いやすい環境を作る
- 共通の目標を掲げる:個々の違いではなく、「勝利する」という共通の目的に焦点を当てる
- メンバー間の相互理解を促す:選手たちが互いの背景を理解できるよう、意図的にコミュニケーションを促す
ハーマン・ブーンのように、関係重視型リーダーは、チームの一体感を生み出し、長期的に安定した組織を作ることができるのが強みです。
一方で、成果を急ぐ場面では、対立を避けすぎてしまうことがデメリットになる場合もあるため、バランスの取れた意思決定が求められます。
④民主型リーダーシップ
「部下の意見を尊重する」

民主型リーダーの特徴
民主型リーダーは、チームメンバーの意見を尊重し、合意形成を重視するスタイルです。
トップダウンで決定を下すのではなく、チーム全体で議論し、最適な結論を導き出します。
このアプローチは、専門知識を持つメンバーが多い職場や、創造的なアイデアが求められる環境で特に有効です。
『アポロ13』(1995年):ジーン・クランツ
1970年、アポロ13号は月に向かう途中で機器トラブルに見舞われ、宇宙飛行士たちは命の危機に陥ります。
地上のNASA管制センターでは、フライトディレクターのジーン・クランツ(エド・ハリス)がチームを率い、限られた時間と資源の中で宇宙飛行士を地球に無事帰還させる方法を模索します。
クランツは一人で決断を下すのではなく、チームメンバーの知識とアイデアを最大限に活用し、解決策を見出していきます。
ジーン・クランツのリーダーシップ

出典:アポロ13
- 専門家の意見を尊重する:エンジニアや科学者の知識を活かし、最適な判断を導く
- 議論を促し、最善のアイデアを採用する:現場の意見を集約し、最も効果的な解決策を選ぶ
- 冷静さと決断力を持つ:チームの意見を取り入れつつ、最終的な判断を迅速に下す
民主型リーダーは、多様な意見を尊重することで、より良い意思決定を行えるのが強みです。
ただし、全員の意見を聞きすぎると意思決定が遅れるリスクもあるため、最終的にはリーダーが決断することが重要です。
⑤ペースセッター型リーダーシップ
「高い目標を掲げ、率先垂範する」

ペースセッター型リーダーの特徴
ペースセッター型リーダーは、自ら高いパフォーマンスを発揮し、チームにも同様のレベルを求めるスタイルです。
言葉よりも行動で示し、メンバーに「自分もこのレベルで頑張らなければ」と思わせることで、組織の生産性を向上させます。
短期間で成果を上げることに適していますが、過度なプレッシャーがかかるとメンバーが疲弊するリスクもあります。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年):ジョーダン・ベルフォート
実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、証券会社を設立し、驚異的な営業力で巨額の富を築き上げます。
彼は自らトップセールスとして猛烈に働き、部下たちにも同じレベルの成果を求めます。
彼のエネルギッシュなスピーチと行動は、部下たちの士気を高め、会社全体にハイパフォーマンス文化を根付かせます。
ジョーダン・ベルフォートのリーダーシップ

出典:ウルフ・オブ・ウォールストリート
- 率先垂範する:自ら圧倒的な成果を出し、部下に模範を示す
- ハイパフォーマンス文化を作る:高い目標を掲げ、それを達成するための環境を整える
- モチベーションを高めるスピーチ:情熱的な話し方で、部下の士気を最大限に引き上げる
ペースセッター型リーダーは、短期間で成果を出す必要がある状況や、高いパフォーマンスが求められる職場で効果を発揮します。
ただし、過度なプレッシャーがメンバーのストレスや離職につながるリスクもあるため、適度なバランスを取ることが重要です。
⑥強制型リーダーシップ
「迅速な意思決定と統率力」

強制型リーダーの特徴
強制型リーダーは、明確な指示を出し、組織を強い統率力で動かすスタイルです。
リーダーの指示に従うことが前提となり、スピーディーな意思決定が求められる場面や、組織に緊急対応が必要なときに適しています。
ただし、長期的にこのスタイルを続けると、メンバーのモチベーション低下を招く可能性もあるため、状況に応じた使い分けが重要です。
『フルメタル・ジャケット』(1987年): ハートマン軍曹
ベトナム戦争中、海兵隊の新兵訓練所では、鬼軍曹のハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)が訓練生たちを徹底的に鍛え上げます。
彼は、厳しい命令と規律を徹底し、精神的・肉体的に兵士たちを追い込みながら、戦場で生き残れる兵士に仕立て上げようとします。
ハートマン軍曹のリーダーシップ

出典:フルメタル・ジャケット
- 強い統率力と規律を重視:指示に従わせ、組織としての一貫性を保つ
- 迅速な意思決定:即時の行動を求め、迷いを許さない
- 高い基準を設定:生半可な努力では通用しない厳格なトレーニングを課す
強制型リーダーシップは、危機的状況や組織に即時の改革が必要な場合には効果を発揮します。
しかし、長期的にこのスタイルを続けると、メンバーの士気が低下し、創造性や自主性が損なわれる可能性があるため、適切なタイミングで他のスタイルと組み合わせることが重要です。
まとめ

映画には、さまざまなリーダーシップスタイルが描かれており、それぞれのシチュエーションに応じた効果的なリーダーシップのあり方を学ぶことができます。
ダニエル・ゴールマンの6つのリーダーシップスタイルを映画のキャラクターとともに振り返ると、以下のようになります。
リーダーシップスタイル | 映画のキャラクター(作品名) | 特徴 |
---|---|---|
ビジョン型 | ビリー・ビーン 『マネーボール』 | 明確なビジョンを持ち、変革を推進する |
コーチ型 | フィリップ 『最強のふたり』 | 部下の成長を促し、個別指導を行う |
関係重視型 | ハーマン・ブーン 『タイタンズを忘れない』 | チームワークを重視し、信頼関係を築く |
民主型 | ジーン・クランツ 『アポロ13』 | メンバーの意見を尊重し、合意形成を図る |
ペースセッター型 | ジョーダン・ベルフォート 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 | 高い目標を掲げ、自ら模範を示す |
強制型 | ハートマン軍曹 『フルメタル・ジャケット』 | 指示命令を重視し、即時的な成果を求める |
優れたリーダーとは
どのスタイルが最も優れたリーダーシップなのか?
答えは、「状況による」です。
たとえば、
・組織に革新を起こしたいならビジョン型
・部下の育成が必要ならコーチ型
・緊急時には強制型
が適しています。
重要なのは、状況に応じてリーダーシップのスタイルを使い分けることです。
映画を通じて、さまざまなリーダーシップのあり方を学び、自身のスタイルを磨いていくことが大切になります。

あなたは、どのリーダーシップスタイルを使っていますか?
また、どの映画のリーダーに共感しましたか?

ぜひ、映画を観ながら、自分のリーダーシップについて考えてみてください😊
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