夢枕獏(著)【餓狼伝XⅠ~XⅢ】ネタバレなし感想「最終巻だけど全然終わらせる気ない」

小説

☆面白い本を探している人に向けた記事

 夢枕獏ゆめまくらばく(著)「餓狼伝がろうでんXⅠ、餓狼伝XⅡ、餓狼伝XⅢ」を読みました。本書を読むかどうか迷っている人、次に読む小説を探している人は、この記事を参考にしていただけたらと思います。

作品概要

 餓狼伝がろうでん夢枕獏ゆめまくらばく氏により1985年より書き下ろされた格闘技小説です。
餓狼伝XⅠが双葉社より2001年10月9日、餓狼伝XⅡが2004年5月11日、餓狼伝XⅢが2005年5月10日に発売されています。
 漫画化、映画化に加えゲーム化もされているメディアミックス作品でもあります。
板垣恵介いたがきけいすけ氏の作画による漫画版も有名で、私も少し読んだことがありますが、登場人物の設定や物語は若干違っていて、あくまで同小説を原作とした漫画といった感じです。

 「”あいつとこいつとはどちらが強いのか”執筆同時には存在しなかったリアルな格闘技小説が餓狼伝です。」
著者である夢枕獏氏は、餓狼伝Ⅰのあとがきにそう書いています。
夢枕獏氏には本格的な格闘技経験はなく、格闘技の素人がどこまで人と人との戦いを書けるか、に挑戦したそうです。

 餓狼伝XⅠでは、前巻以前より語られていたアメリカで開催されるバーリトゥードによる格闘技トーナメント開催が描かれ、餓狼伝XⅡ、餓狼伝XⅢでは「須玖根流」という謎の武術を操る人物が登場し、物語はさらに広がっていきます。

感想

読者の思い

 餓狼伝には最強になることを諦めた者もいる。大抵は勝負に負けたことで、自分は最強になれないと悟り、勝負の世界から退いた者たちである。
第一線を退いた後は、指導者として、そういったもの者たちのは己が持つ技術を託す。己の技術を託した者が最強になることで、最強への夢を別の形で存続させているのである。
 最強への思いは人と人が戦い始めた、遥か過去から受け継がれている。
そうやって受け継がれた大勢の夢が一つになってぶつかり合う。
もはや戦っている当人同士だけのものではない。
 彼らに夢や思いをを託した者、彼らに負けた者、それ以外にも彼らとは直接に関係がない、試合を見に来たただの見物客の思いまでも、背負い戦うことになる。
それらは、果たして、戦う者にとって、力になるのか、それとも足枷となってしまうのか。
物語が進むほどにそれは大きくなる。
読者の登場人物に対する強い思いを受け、著者はそれをどのような形にして表現するのか…期待したい。

勝ち負けにこだわらない第3の男

 餓狼伝で描かれるのは、お互いが、勝ちたい、負けたくない、そういった戦いである。
しかし、ついにそれ以外の戦いが描かれることになる。
誰の戦いか。
最強になることを諦めた男、伊達潮男だてうしおである。斑牛の伊達という異名を持つプロレスラーの彼は、若き日に松尾象山に敗れ、それ以来、最強になることを諦めた。
これ以上それを目指しても、所詮松尾象山の次の世界で2番目に強い者にしかなれないと悟ったのである。
そして彼は、銭の取れるレスラーになることを決意した。
プロレスラーのナンバーワンは強さだけがすべてではない。
もちろん強さも必要だが、それと同等に、その人物にしかできないような試合をし、観客を沸かせる技術が必要になる。
伊達は”魅せる試合”をする、というのである。
戦う相手はプロレスラーではない。
プロレスの試合でもはない。
相手は”何でもあり”の中で戦っている者で、試合も”何でもあり”で行う。
伊達は自分を魅せるつもりだ。
その結果、勝っても負けてもいいと考えている。
相手は伊達に付き合うつもりはないだろう。
そういった相手との試合の中で伊達がどういう戦いするのか…
伊達がそのことを語ったのはほんの数ページである。
 そのほんの数ページの描写で、すべて持っていかれた気分だった。
ずっとストレートで来ていたのにここにきて急に変化球で攻められて動揺した。
ずるい。

あとがき的なものとオススメ度

 いろいろな意味で相変わらずです。しかしマンネリ化している感じは全然ないし、むしろ”餓狼伝”らしさは濃密になっていき、面白さも右肩あがりです。

 餓狼伝は、餓狼伝XⅢで完結です。しかし物語に何の区切りもなく、次々に新たな人物が登場し、物語をどんどん広げていっています。
 その状況を餓狼伝XⅡで著者は一言、こう述べています。

 いや、『餓狼伝』まさに混沌の極み。

~餓狼伝ⅩⅡあとがきより~

 まさにその通りです。これ以上に餓狼伝XⅠ~XⅢを表す言葉は見つかりません。
 そしてさらに餓狼伝XⅢのあとがきではさらに、新たなアイデアがひらめいたと書かれています。…この混沌は永遠に続きそうですね。
餓狼伝Ⅶのあとがきの言葉、
「あらゆる物語の最終回は、ある日の作者の死をもって、いきなり、読者の前に投げ出されるべきではないか」
がさらに現実味を帯びてきますね…。

 「餓狼伝XⅠ~XⅢ」のオススメ度は★3.0です!(満点が★5.0です)
 餓狼伝としては完結ですがまったく区切りというものはありません。それだけは注意してください。この巻まで読んでしまうと、次シリーズ「新・餓狼伝」も続けて読む羽目になりますよ!

こうよう
こうよう

新・餓狼伝では、個人的にはプロレスの強さをもっとみたい!

パン
パン

プロレスが強いのはロマンがあっていいよね!

こんな人にオススメ

・格闘技に興味がある

・面白くて熱い小説が読みたい

・濃密な小説が読みたい

・完結していなくても構わない

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