☆面白い本を探している人に向けた記事
夢枕獏(著)「餓狼伝Ⅰ、餓狼伝Ⅱ、餓狼伝Ⅲ、青狼の拳 餓狼伝・秘篇」を読みました。本書を読むかどうか迷っている人、次に読む小説を探している人は、この記事を参考にしていただけたらと思います。
作品概要
餓狼伝は夢枕獏氏により1985年より書き下ろされた格闘技小説です。
餓狼伝Ⅰが双葉社より1988年6月13日、餓狼伝Ⅱが1988年12月12日、餓狼伝Ⅲが1990年6月12日、青狼の拳が1989年12月12日に発売されています。
漫画化、映画化に加えゲーム化もされているメディアミックス作品でもあります。
板垣恵介氏の作画による漫画版も有名で、私も少し読んだことがありますが、登場人物の設定や物語は若干違っていて、あくまで同小説を原作とした漫画といった感じです。
「”あいつとこいつとはどちらが強いのか”執筆同時には存在しなかったリアルな格闘技小説が餓狼伝です。」
著者である夢枕獏氏は、餓狼伝Ⅰのあとがきにそう書いています。
夢枕獏氏には本格的な格闘技経験はなく、格闘技の素人がどこまで人と人との戦いを書けるか、に挑戦したそうです。
餓狼伝Ⅰは、空手家の丹波文七とプロレスラーの梶原年男との因縁と戦いを描いています。
餓狼伝Ⅱは餓狼伝Ⅰのその後、餓狼伝Ⅲはまたその後を描いていて、青狼の拳は外伝的な小説で餓狼伝Ⅰの過去を描いています。
物語の区切りとしては餓狼伝Ⅰで一区切り、餓狼伝Ⅱで物語は広がっていって、餓狼伝Ⅲではさらに物語は広がりを見せ、餓狼伝Ⅳへと繋がっていきます。
感想
著者・夢枕獏氏らしい熱く苦しいような心情描写が魅力的でした。
熱が伝わってくる描写
餓狼伝はなかなか物語が進すまない。しかし退屈ではない。登場人物の描写が素晴らしい。
格闘技小説なので、特定の誰かと誰かが出会い、戦うことになる。そこに至るまでの物語が、まず面白い。
そう感じさせてくれているのが登場人物の描写。登場人物の強さに対する考え方や信念、現在に至るまでの出来事や葛藤が細かく描かれていて、登場人物の魅力を存分に引き出している。
もちろん餓狼伝は格闘の描写も、生々しく、痛々しく、熱くなる描写ですごい。
しかし、やはり餓狼伝の魅力は戦いの最中であっても心理描写だと思う。
読んでいると、熱く苦しくなるような、そんな心情描写である。
勝者と敗者
戦いになれば、結果として勝者と敗者が生まれる(引き分けという場合もあるだろうけど)。
しかも餓狼伝における戦いは試合という形式の場合もあればそうでない形式、その気になればその場で始まってしまうような、ルールもレフェリーもいないような、決着といえばどちらかが戦えなくなる、時には死すらもあるような戦いである。
死ぬことは免れたとしても、戦いの結果、精神や肉体の事情により2度と戦えなくなることもある。
戦いになればどちらかが物語から退場することになる可能性がある。どちらにも負けてほしくない、そう思ってしまう。
そう考えると戦ってほしくないような気もしてくる。しかし気になる。どちらが強いのか…。
そういうことを考えてしまう、引き込まれるような魅力が餓狼伝にはある。
魅力的な登場人物
勝負である以上、勝ち負けも、もちろん重要だと思う。
しかしそこに至るまでの物語と心情と行動、戦いの最中での心情と行動、そういったことすべてが描かれ、その結果が、勝ちであれ負けであれ、それによって登場人物の魅力が薄れることはない。
主要な登場人物で、負けたことにより、魅力が薄れた人物は餓狼伝に登場しない。
それは戦った全員が、己の信条に従い努力しすべてを出し切って、その結果、負けるからである。
負けたほうの努力や強さと引き換えに失ってきたものが並大抵ではないとわかっているし、その時にはわからなくても、あとでそれがわかる場合もある。
登場人物全員が悩み葛藤し並大抵ではない努力をして、強さと引き換えにさまざまなものを失って、そして全力で戦い、その結果、勝ったり負けたりする。
魅力的に感じないわけがない。
リアルな物語
勝ったらは嬉しいし、負けたら悔しい、当たり前である。しかし餓狼伝はそう単純なものではない。
負けて得るものがあったり、勝って失うものもあるのだ。
勝ったほうが幸せになって負けたほうが不幸になる、必ずしもそうではない。逆も有り得る。
餓狼伝のそういう、生々しくリアルで理不尽で、現実的なところが好きだ。
広がり続ける世界
餓狼伝Ⅰでは、主人公、空手家の丹波文七とその敵役(またはライバル)プロレスラーの梶原年男の2人を中心にして物語が進んでいく。
餓狼伝は単純に新たな登場人物に主人公の丹波が挑む、そういう物語ではない。
例えば餓狼伝Ⅰで丹波の代役として仕立て上げられ、名前だけ登場した、プロレスラーの永田も後々きちんとした形で登場する。
しかもこの永田も、とても魅力的な人物として描かれる。正直、餓狼伝Ⅰを読んだ時点では想像もしていなかった。
この永田に限らない。物語が進むと、どんどん魅力的な登場人物が登場するのである。
いや、魅力的な登場人物が登場するという言い方は間違えているかもしれない。正しくは登場した人物が、どんどん魅力的になっていくのである。
餓狼伝の主人公は丹波文七である。しかし梶原も永田も、丹波の弟子である久保涼二でさえも見方によっては主人公であり、そうなる可能性を秘めていると思う。
そういった別視点の物語を見てみたい。絶対に面白いはず。
あとがき的なものとオススメ度
今回は「餓狼伝Ⅰ~餓狼伝Ⅲ」までと餓狼伝Ⅰの過去を描いた外伝「青狼の拳」の感想を書きました。
なんで物語の区切りもついていない、中途半端な巻数である餓狼伝Ⅲで一旦区切ったかというと、餓狼伝Ⅰのあとがきで、著者夢枕獏氏がこう書いていたからです。
おそらく、この物語は、最終的には三冊くらいの物語になる予定である。
一巻から三巻まで、退屈だけはさせないつもりだ。餓狼伝Ⅰあとがき より
完全に騙されました。でも全然悔しくはありません。むしろうれしいくらいです。
でもほんのちょっとですが、3巻で一旦の区切りのようなものぐらいがあるのかも、くらいには考えていたので、やっぱりちょっとだけ悔しいです。
ちなみに餓狼伝Ⅱのあとがきでは”4冊くらいになりそう”と書かれていますがもちろん餓狼伝は4巻で完結していません。餓狼伝Ⅳはまだ未読ですが、絶対に完結しないし、話の流れや物語の広がりを考えると、ひと区切りといったこともないだろうと思っています。もう騙されません!(笑)
※2024年現在、餓狼伝は14巻、その続編である新・餓狼伝は5巻刊行されていて、現在も未完です。
すごく面白いしたくさん書いていただけるのはファンとしてはとても喜ばしいことではありますが、私が死ぬまでに一応でも良いので結末を読みたいです。先生、本当によろしくお願いします…。
「餓狼伝Ⅰ~Ⅲ、青狼の拳」オススメ度は★4.5です!(満点が★5.0です)
派手さはありませんが、熱くリアルな描写が小説というプラットフォームにマッチしていてとても良いです。格闘技ファンでなくとも楽しめると思いますよ!
まさに拳で語り合うといった感じでとても熱くて面白い作品ですよ!
心情描写が特徴的だよね。
こんな人にオススメ
・格闘技に興味がある
・面白くて熱い小説が読みたい
・濃密な小説が読みたい
・完結していなくても構わない
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