「インターネットは、もっと自由なものだったはず――」
そんな思いが心に浮かんだのは、藤井太洋さんの小説『ハロー・ワールド』を読んだときでした。
ネットが生活に欠かせないものとなった今、私たちはいつの間にか、その便利さの裏で“自由”を少しずつ手放しているのかもしれません。
この小説は、そんな問いに静かに、しかし確かな声で応えてくれる一冊でした。
『インターネットは自由でなきゃならない』
藤井太洋(著)ハロー・ワールド より引用
オススメ度について
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作品概要

作品名 | ハロー・ワールド |
著 者 | 藤井 太洋 |
ジャンル | サイエンス・フィクション |
発行日 | 2018年10月18日 |
ページ数 | 305ページ |
読み終えるまでの目安 | 4時間42分 |
『ハロー・ワールド』は、技術者の主人公・文椎恭洋(ふづい やすひろ)が、世界各地のさまざまな場所で、IT技術を駆使して社会の不正や監視の問題に立ち向かっていく連作短編集です。
インドネシア、バンコク、マレーシアなどを舞台に、広告ブロッカー、SNSの検閲、仮想通貨など、現代のインターネット社会が抱えるリアルな問題を題材にしています。
作品から学べる教訓・人生観(感想)

① 自由を守るために必要な”不自由”
ハロー・ワールドではインターネットの”自由”について多く語られます。
自由を守るためには、ある程度の規制や制限も必要になる。
矛盾しているようで、それが現実です。
ネットサービスを利用する際は、自分のデータがどう使われているか意識したり、プライバシー設定を見直すなど、小さな選択を意識的に行うべきだと感じました。
② 目先の利益ではなく、自分の信念を軸にする
文椎は常に、自分にとっての”正しいこと”を優先します。
それがどんなに不便でも、非効率でも、信念を貫く姿勢は学びになります。
現代人はよく、SNSの発信やネットでの言動で、ウケやバズを狙う傾向にあり、ひとつの社会問題のようなもの。
それは人としての正しさと離れてしまっているように思えます。
彼のように、とまでは言いませんが、発信をする際は、自分がどう思われたいかではなく、自分の本心と向き合い、それが本当に正しいかどうか判断して行動したいと思いました。
③ 自分ひとりで解決しようとしない、でも依存しすぎない
困ったとき、文椎は周囲の人の力を借りながらも、自分の役割を果たす姿勢を崩しません。
彼は多くの成功を得ましたが、それは自分を客観視し、自分の能力の限界を見極めつつも、決してすべてを他人任せにしたり、楽をしようとしなかったからだと思います。
私たちも問題を抱えたとき、専門家や信頼できる人に相談はすると思いますし、そうすべきだとは思いますが、自分も積極的に調べたり行動したりする意識を持ち、精一杯の行動をすること。
それが自分にも周りにも良い影響を与えるきっかけになるはずです。
なぜこの作品がオススメなのか

ITを題材にしているが読みやすい
本作は、ITに詳しい、または興味がある人はもちろんですが、ITに詳しくなくてもとても読みやすい作品です。
特にインターネットが自由だった頃を知る世代にとっては、現在の変化を肌で感じることができ、文椎の言動に強く共感できます。
そして、ITに詳しくない人でも、ストーリーの展開や社会の問題に触れることで、ネットの本質を考えるきっかけになる作品だと思います。
総評・まとめ

『ハロー・ワールド』は、テクノロジーと社会、そして人間の在り方を静かに問いかけてくる作品です。
主人公・文椎は腕っぷしも強くないし、外見描写も控えめ。
それでも、彼の判断力や行動力、そして何よりもそのポリシーにはしびれました。
ただの”かっこいい”キャラクターではなく、私たちも「こうありたい」と思えるような、地に足のついたかっこよさがそこにあります。
『ハロー・ワールド』のオススメ度は⭐4です!
完成度が高く、このジャンルが好きならより楽しめる作品。

個人的な面白さは満点でした。ただし、それは私が文椎と同世代であり、ネットの変遷を経験してきたからこそ強く共感できた部分が大きいと思います。

もしITやネットの知識が全くなければ、ここまで感情移入はできなかったかもね。 それでも、物語としての完成度とテーマ性は十分に伝わるはず。
こんな人にオススメ

- インターネット黎明期をリアルタイムで経験した方
- 技術と社会の関係に興味がある方
- 派手なアクションよりも、静かな信念に惹かれる方
- 現代のネット環境に違和感や疑問を感じている方
- 「自由とはなにか?」をじっくり考えてみたい方
現実と地続きの世界で、ネットの”自由”を守るとはどういうことか。
それを教えてくれる、静かで力強い一冊です。
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