ふとしたときに、自分の人生がどこに向かっているのかわからなくなることってありませんか?
そんなとき、読書はちょっとした羅針盤になります。
特に、世界が理不尽でどうしようもないほど複雑に描かれている物語に触れると、「それでも進んでいこう」と思えるから不思議です。
今回紹介する『火狩りの王』(日向理恵子 著)は、まさにそんな物語でした。
読むのは正直、しんどい。
でも、そこに確かに”希望”がありました。
オススメ度について
このブログでは、映画や書籍のオススメ度を5段階で評価しています。
各評価の基準については、こちらでご確認いただけます。
作品概要

作品名 | 火狩りの王 |
著者 | 日向理恵子 |
ジャンル | ファンタジー |
発行日 | 2018年12月17日~2021年12月21日 |
巻数 | 全5巻(本編4巻+外伝1巻) |
ページ数 | 1巻:347ページ 2巻:365ページ 3巻:319ページ 4巻:353ページ 5巻:271ページ |
読み終えるまでの目安 | 1巻平均:約6時間30分 |
物語の舞台は、人類最終戦争後の世界。
大地は黒い森に覆われ、人類は天然の火に近づくと体が内側から燃え上がる「人体発火病原体」に冒されていました。
人々が安全に扱える火は、黒い森に棲む獣・炎魔を狩ることで得られるものだけ。
炎魔を狩る者は「火狩り」と呼ばれ、彼らの間では「千年彗星〈揺るる火〉を狩った者は、火狩りの王と呼ばれるだろう」という噂が囁かれていました。
物語は、森に囲まれた小さな村に生まれた11歳の少女・灯子と、機械工場が立ち並ぶ首都で暮らす15歳の少年・煌四の人生が交差することで動き出します。
作品から学べる教訓・人生観(感想)

①灯子から得られる教訓:今できることに目を向ける
灯子は非力で、できることも多くありません。
途中でケガを負い、思うように動けなくなることも。
それでも彼女は、失ったものを数えるのではなく、「今できること」「今あるもの」に目を向けて前に進みます。
これは、現代を生きる私たちにも通じる姿勢です。
たとえば仕事で思うように成果が出ないとき。
あるいは、大切な人との別れや健康の不安を抱えたとき。
「ないもの」「できないこと」に目を向け続けても、心はどんどん閉じていくばかり。
そんなときこそ、灯子のように「今、自分にできることを全力でやる」ことの大切さを思い出したいものです。
②煌四から得られる教訓:世界を知り、自分を知る
煌四は物語の中で多くの失敗を重ね、何度も後悔します。
それでも彼は歩みを止めず、世界を知り、自分を深く掘り下げながら行動し続けます。
ただやみくもに進むのではなく、視野を広げ、客観的に物事を見る姿勢。
これは私たちにとって、とても共感できる成長のあり方ではないでしょうか。
仕事や人生の方向性に迷ったとき、煌四のように「まずは知ることから始める」という選択肢を思い出すことで、選べる道はぐっと増えるはずです。
③世界の不条理さと人の愚かさ、でもそこにある”希望”
『火狩りの王』を読んで強く感じたのは、 「世界は簡単に変わらない」「人も愚か」――それでも人は諦めない、という姿勢です。
どれだけ頑張っても報われない場面、前に進んでいるのかすら分からない感情の揺れ。
2巻〜3巻あたりは特に、読むのがつらく感じるほど心情描写が濃密で、読むこちらも疲弊します。
しかし、全巻を読み終えたあとには、どこかで希望の光が差し込んでいるのを感じます。
それは、劇的な逆転劇ではなく、じわじわと滲み出すような静かな希望。
「完璧な世界はないけれど、どうしようもなくなることもない」
そう思えることこそが、灯子や煌四が物語を通して示してくれた生き方なのかもしれません。
なぜこの作品がオススメなのか

心を使って読むからこそ、得られるものがある
正直、読むのは楽ではありません。
テンポもゆっくりで、心情描写が細かく、とくに中盤は息が詰まるような展開が続きます。
それでも、なぜこの作品を薦めたいのか。
それは、「心を使って読むからこそ、得られるものがある」からです。
現実もまた、不条理と後悔の連続です。
それでも、人は自分の足で立ち、今日を生きるしかない。
そんな”当たり前だけど忘れがちなこと”を、読み終わったあとに強く思い出させてくれる物語でした。
総評・まとめ

『火狩りの王』は、ち密に設計された世界観と、読むのが苦しくなるほどの人物の心情描写が特徴の作品です。
物語は複雑で、話がいったりきたりしたり、感情が大きく揺れ動いたりと、なかなか前には進みません。
しかし、全巻を読み終えると、それこそが著者が『火狩りの王』で描きたかったものなのだと感じます。
世界は理不尽で、人も揺れ動く。
それでも、人は諦めずに行動し続ける。
その姿勢こそが、希望なのだと。
『火狩りの王』のオススメ度は⭐2です!
独特な魅力があるが、好みが分かれる作品。
刺さる人には刺さるはず!

あえて言います。「読むのがつらい」。
テンポが悪く、情報量も多い。
ですが、その”つらさ”こそが作品の魅力でもあります。
エンタメとしての爽快感は少ないかもしれませんが、読み終えたあとに残るものの重さは他の追随を許しません。

「刺さる人にはとことん刺さる」。
そんな、選ばれし者向けの作品だね。
こんな人にオススメ

- 感情の機微に触れる作品が好きな人
- 哲学的なテーマに関心がある人
- 自己成長や人生の意味について考えたいタイミングにある人
- ちょっと疲れているけど、何か前に進みたいと感じている人
- エンタメよりも、読後に静かな余韻を味わいたい人
本作で描かれる、「失敗しても、それでも進む姿」や「持っているものに目を向ける姿勢」は、どこか他人事ではないはずです。
『火狩りの王』は、そんな私たちに寄り添い、背中をそっと押してくれる作品でした。
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