“自由死”を選んだ母。その本心はどこに?『本心』で考える死を選ぶ自由【書籍レビュー】

自分の「本心」って、わかっていますか?

近未来を描いたSF的な世界なのに、不思議なほど現実の私たちの社会や心と重なってくる。

そんな作品が、平野啓一郎さんの小説『本心』です。

「自分の本心がわからない」
「他人の本心なんて、理解できないかもしれない」

そんな思いを何度も感じながら、読み進めるうちに、生と死、そして他者との関わりについても深く考えさせられました。

読み終えた今でもなお、心の中で物語が続いているように感じています。



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作品概要

作品名本心
著 者平野啓一郎ひらのけいいちろう
ジャンル日本文学
発行日
(単行本)
2021年5月26日
ページ数457ページ
読み終えるまでの目安6時間55分
あらすじ

小説『本心』は、平野啓一郎さんによる長編小説。舞台は「自由死」が認められた近未来の日本です。

主人公の朔也(さくや)は、亡き母の「自由死」に対する真意を探るため、母の思考や記憶を再現したバーチャル・フィギュア(VF)と対話を重ねていきます。

一方で、格差の進行した社会で暮らす中、朔也自身の生き方、他者との関係、そして死について深く向き合うことになります。


作品から学べる教訓・人生観(感想)

①本心は“変わる”ものである

読み始める前は「本心=その人の一番正直な気持ち」だと思っていました。

でも読み進めるうちに、それがいかに不確かなものかを思い知らされます。

本心は、その時々によって変わるし、思い出した時すら変わってしまう。

だからこそ、「本心を探ること」そのものに、意味があるのかどうか――。

むしろ、自分や他人の言動を「本心でないから」と断じてしまう危うさにも、気づかされました。

それでも、他人の言葉に「本心じゃない」と決めつけずに、まず受け止めてみたり、自分の中でも「これは今の気持ち」と認め、固定しすぎない柔軟さを持つことが、自分にも他人にも良い影響を及ぼすはずです。

②「死」が変われば、「生」も変わる

本作でもっとも印象に残ったのは、次の一文です。

「しかし、死が恐怖でなくなればなくなるほど、相対的に、僕たちの生は価値を失ってしまうだろう。」

「自由死」が存在するこの世界では、人は自分で「死に方」さえ選べる。

けれど、それによって生きることの価値が薄れてしまう……

そんな皮肉にも似た問いが、静かに突き刺さります。

私自身、今を一生懸命に生きている理由の一つに「後悔したくない」という思いがあります。

それはきっと、「死」という終わりがあるから。

日ごろから「後悔しない生き方」を問い直し、日々の小さな選択を丁寧にすること、そして親しい人との会話に「いま伝えたいこと」を惜しんではいけないと強く感じました。

本作を読めば、「自分の死生観」について、あらためて考えるきっかけになるはずです。

③ 他者を理解できないのは、価値観の“狭さ”ゆえ

物語の中で、朔也はバーチャル空間でさまざまな人と出会い、「自由死」に対して反対だった気持ちが少しずつ揺らいでいきます。

読み始めは、死者のVFにすがる人々の気持ちがまったく理解できなかったのですが、読んでいくうちに、「それぞれの事情や想い」があることに気づかされました。

自分の価値観の狭さが、他者を理解できない原因になることもある――

この気づきは、現代を生きる私たちにもそのまま当てはまるはず。

「理解できない人」に出会ったとき、少し立ち止まってその背景に思いを馳せたり、自分と異なる立場や考えに触れる読書や対話を大切にすることが、自由に生きるためには必要不可欠なのかもしれません。


なぜこの作品がオススメなのか

リアルで繊細な心理描写がある

派手な展開やどんでん返しはないけれど、読後に心に問いを残してくれる作品です。

「死を選ぶ自由」がある社会は、もしかしたらすぐ近くまで来ているかもしれない――

そんなリアリティが感じられます。

答えの出ない問いに向き合うことで、自分自身の“本心”にも少しだけ近づける気がします。


総評・まとめ

一見地味で、娯楽性は乏しい作品です。

でも、そのぶん読み終えたときに残る余韻はとても深く、人生について静かに問い直す時間をくれました。

主人公の朔也と同じように、私たちもまた“わからなさ”や“揺らぎ”の中に生きています。

だからこそ、この物語には、現代の私たちが抱える不安や葛藤が色濃く映っているのかもしれません。


本心』のオススメ度は⭐2です!

独特な魅力があるが、好みが分かれる作品。
刺さる人には刺さるはず!


こうよう
こうよう

エンタメ性やテンポの良さを求める方には正直おすすめしづらいですが、思考の深まりを求める読書には◎です。

パン
パン

「面白い作品」というより「心に残る作品」といった感じだね。


こんな人にオススメ

  • 「死生観」や「自分の本心」について考えてみたい人
  • ディストピアではなく、リアルな近未来小説に興味がある人
  • 自分とは異なる価値観と静かに向き合いたい人
  • じっくりと“余韻”の残る作品を読んでみたい人

親しい人に“自由死”を認めてほしいと言われたら……

そんな問いを突きつけられる近未来小説『本心』。

ぜひ手に取ってみてください。



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