知ることは、本当に幸福をもたらすのだろうか?
私たちは新しい知識を得るたびに、世界をより深く理解できるようになったと感じる。
しかし、その理解が必ずしも喜びにつながるとは限りません。
本書『この闇と光』は、「知ることの残酷さ」と「幻想と現実の狭間」に揺れる一人の少女の物語です。
読めば読むほど、自分の中にある「光」と「闇」に向き合わざるを得なくなる、そんな一冊となっています。
オススメ度について
このブログでは、映画や書籍のオススメ度を5段階で評価しています。
各評価の基準については、こちらでご確認いただけます。
作品概要

作品名 | この闇と光 |
著者 | 服部まゆみ |
ジャンル | ゴシックミステリ |
発行日 | 2014年11月21日 |
ページ数 | 304ページ |
読み終えるまでの目安 | 3時間56分 |
ゴシックミステリというジャンルに分類されるこの作品は、美しくも残酷な物語を描きながら、「真実を知ることの意味」に深く切り込んでいきます。
盲目の王女・レイアは、父王とともに森の奥深くに住んでいた。
彼女の世界は、優しく、甘美で、光に満ちた楽園のような場所だった。
しかし、彼女が成長し、世界の秘密を知り始めると、その幻想は徐々に崩れていく。
そして、彼女が目にしたのは、想像を絶する現実だった……。
作品から学べる教訓・人生観(感想)

美しい顔は画集の画集の中にだけ存在し、美しい若者は物語の中だけに存在する……
現実に見る同世代の者たちは醜く、愚かで幼稚だった。そしてそう思う僕自身、彼らと大差ない存在だと感じれば感じるほど、僕は彼らを憎んだのかもしれない。
外と裡……
服部まゆみ(著)『この闇と光』 より引用
それは同じことなのだ。
『この闇と光』を読み終えた後に残るのは、「知ることの残酷さ」と「記憶のあいまいさ」に対する深い考察です。
①知ることの残酷さ
レイアは多くを知りたがる少女だった。
しかし、後半の展開では、知ることが必ずしも幸せにつながるわけではないことに気づく。
善と悪、幸福と不幸、美と醜──
これらは絶対的なものではなく、すべてが主観によって決まるものであることを知るのです。
②記憶のあいまいさ
さらに、「人の記憶がとてもあいまいだ」という点にも物語は触れています。
これは単なるミステリ要素ではなく、「記憶のあいまいさが、時には人を救うこともある」という示唆を含んでいるのです。
すべてを覚えていることが必ずしも良いとは限らない。
時には、忘れることが人を幸せにすることもあるのだということを再認識させれます。
なぜこの作品がオススメなのか

①引き込まれる世界観の美しさ
物語の前半は、柔らかく幻想的な雰囲気に包まれています。
翻訳小説のような独特の文体は、まるで夢の中にいるかのような気分にさせます。
しかし、これが後半に向けての伏線となっているのが巧妙です。
②光と闇、理想と現実を対比させたテーマ
前半と後半で世界がまるで別物のように描かれることで、読者は「幻想が崩れる瞬間」をレイアとともに体験します。
これは単なるどんでん返しではなく、同時に私たち自身の人生にも通じる哲学的な問いを投げかけてくるのです。
③知ることの意味を考えさせられるストーリー
レイアが知る「真実」は、彼女にとってはあまりにも残酷なものです。
それでも人は、知ることを止められない。
これは、現代社会に生きる私たちにも共通するテーマです。
総評・まとめ

『この闇と光』は、幻想と現実のコントラストを見事に描き出した作品です。
前半の美しい幻想が、後半の残酷な現実によって打ち砕かれる様は、まるで夢から覚めるような感覚を与える。
しかし、その中にも一筋の救いがある。
それは、「世界には自分がすべてを把握できないほどの物事がある」という事実です。
私たちは、知ることによって世界に落胆することもありますが、それでも世界は尽きることなく広がっている。
その意味で、本書『この闇と光』は「知ることの痛み」と「それでも世界が続いていくこと」を描いた、非常に深い物語だと思います。
『この闇と光』のオススメ度は⭐4です!
完成度が高く、このジャンルが好きならより楽しめる作品。

世界観の完成度の高さと、テーマの深さがこの評価の理由です。
ただし後半の展開があまりにも残酷であるため、人によっては読後感がかなり重く感じられるかもしれません。

結末に救いがあるかどうかは、読者の受け取り方次第だね。
こんな人にオススメ

- 哲学的なテーマに興味がある人
- 幻想的な物語が好きだけど、現実の厳しさも受け入れられる人
- 読書が好きで、考えさせられる作品を求めている人
- 「知ることの意味」について考えたことがある人
『この闇と光』は、ただのゴシックミステリではありません。
「知ること」「記憶」「幻想と現実」など、多くの哲学的な問いを投げかけてくる作品です。
読後、心に残るのは、光か、それとも闇か──
それは、あなた次第です。
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