3月といえば卒業シーズン。
新しい道へ踏み出す季節です。
卒業には、別れ・旅立ち・成長など、さまざまな感情が詰まっています。
期待や不安、別れの寂しさ、そして未来への希望――
春の一瞬を切り取った作品から、大人にも響く深い物語まで幅広く紹介します。
①朝井リョウ『少女は卒業しない』
卒業式という1日を多角的に切り取った群像劇
作品概要

『少女は卒業しない』は、直木賞作家・朝井リョウ氏が描く、卒業式当日の学校を舞台にした連作短編集です。
舞台は、とある地方の高校。
卒業式の日、校舎のあちこちでは、さまざまな「最後の物語」が静かに繰り広げられます。
教室、体育館、屋上、音楽室──
それぞれの場所で交差する、高校生たちの想い。
告白を決意する人、友人関係にけじめをつける人、どうしても踏み出せない人。
青春のきらめきとほろ苦さが詰まった、まさに「卒業」という瞬間を切り取った作品です。
2023年には映画化もされ、大きな話題を呼びました。
「卒業」というテーマの描き方

『少女は卒業しない』では、「卒業=人生の区切り」としてだけでなく、「少女であることを卒業する」という、より個人的で繊細なテーマも描かれています。
大人になりきれないまま、大人への一歩を踏み出さざるを得ない日。
学校という場所に守られていた時間が終わることへの不安、期待、後悔、切なさ。
それらが登場人物ごとに異なる形で表現され、「卒業式」は単なるセレモニーではなく、人生の大きな節目として読者に伝わってきます。
恋愛だけでなく、友情や家族、未来への不安も絡み合い、「卒業」が持つ多層的な意味が浮かび上がる構成です。
作品の魅力

短編集ならではの多様な物語
それぞれの短編は、独立しながらも、舞台となる高校と「卒業式」という共通の時間軸で繋がっています。
複数の視点が重なり合い、ひとつの卒業式を立体的に描く構成は、短編集ならではの魅力。
他者には見えない「心のドラマ」が校舎のあちこちで繰り広げられていることを実感できます。
心情描写のリアルさ
登場人物たちの揺れる心の描写は、朝井リョウならではの鋭さ。
「卒業式の日」という特別な日だからこそ生まれる高揚感や、普段は隠していた感情の露呈。
大人から見れば些細な出来事も、当事者の高校生たちにとっては一生忘れられない「卒業の記憶」として刻まれます。
青春の繊細な機微が丁寧に描かれ、共感と切なさが胸に迫る作品です。
②豊島ミホ『檸檬れもんのころ』
卒業間近の何気ない日常に忍び寄る切なさを描く
作品概要

『檸檬のころ』は、豊島ミホによる連作短編集です。
舞台は地方都市にある高校。
そこに通う5人の高校生たちが、それぞれの視点で自分自身の青春と向き合う物語です。
バンドに夢中な男子、憧れの先輩を追う女子、進路に悩む生徒会長──
一見どこにでもいる普通の高校生たちですが、彼らの心の中には、言葉にできない思いや小さな葛藤が渦巻いています。
「卒業」を目前にした高校生の心模様が、みずみずしくもリアルに描かれた一冊です。
「卒業」というテーマの描き方

『檸檬のころ』に登場する高校生たちにとって、「卒業」は目前に迫った大きな区切りです。
しかし、卒業そのものよりも、「いつもの日常が終わってしまうこと」への寂しさや、「未来を選ばなければならないこと」への不安が、作品全体を包んでいます。
卒業式という特別なイベントだけでなく、放課後の何気ない時間や、教室での友達との会話、通学路での景色──
それらの何気ない瞬間が、「もうすぐ終わる時間」として切り取られ、読者にも胸が締め付けられるような感覚を与えます。
また、青春時代ならではの「届かない思い」や「すれ違い」も描かれており、卒業は必ずしも明るく前向きなものではないことを伝えてくれる作品です。
作品の魅力

ノスタルジックな雰囲気
タイトルの『檸檬のころ』が象徴するように、本作には青春のほろ苦さが詰まっています。
淡い初恋の甘酸っぱさ、友人関係の微妙な距離感、将来への漠然とした不安──
誰もが一度は感じたことのある、あの「青春の匂い」がページから立ち上るようです。
大人になった読者が読むと、自分の高校時代を思い出して、思わず胸が熱くなるような一冊です。
登場人物のリアルさ
登場する5人の高校生は、どこにでもいそうな普通の子たち。
しかし、それぞれに抱える思いや悩みはとても繊細でリアルです。
誰もが主人公になれるわけではなく、時に「脇役」として青春を過ごすこともある──
そんな等身大の青春が、豊島ミホならではの優しい筆致で丁寧に描かれています。
卒業後の余韻
本作の魅力は、卒業というイベントの前後にある「余韻」の描き方にもあります。
卒業が終わっても、すぐに新しい生活になじめるわけではなく、思い出に引きずられたり、ふとした瞬間に「戻れない日々」を思い出したり。
そんな卒業後の時間まで想像させる余白が、本作にはあります。
読み終えたあと、ふと自分自身の「檸檬のころ」を思い出す、そんな作品です。
③宇山佳佑うやまけいすけ・蒼山皆水あおやまみなみ 他『卒業 君がくれた言葉』
様々な作家が描く「卒業のかたち」を集めたオムニバス
作品概要

『卒業 君がくれた言葉』は、人気作家たちによるオムニバス短編集です。
宇山佳佑、蒼山皆水をはじめ、5人の作家によって紡がれた「卒業」をテーマにした物語が収録されています。
青春小説の名手たちが、それぞれの視点で描く卒業エピソードには、甘酸っぱい恋、かけがえのない友情、そして未来への一歩を踏み出す勇気が込められています。
短編集だからこそ、様々な形の「卒業」に触れることができる、贅沢な一冊です。
「卒業」というテーマの描き方

本作の特徴は、「卒業」を単なるセレモニーや人生の節目として描くだけではなく、登場人物それぞれの想いや背景によって、その意味合いが大きく変わる点です。
- 恋に踏み出すきっかけとしての卒業
- 友人との別れを前にした葛藤
- 親や先生、周囲の大人たちとの関係に決着をつける卒業
- 自分自身を見つめ直す時間としての卒業
同じ「卒業」という出来事でも、誰と、どんな想いを抱いて迎えるかによって、その輝き方はまったく異なります。
本作は、そんな多様な卒業の形を読者に提示してくれる作品です。
作品の魅力

短編ごとに変わる視点と世界観
7編の物語は、それぞれ異なる作家が執筆しており、作風や語り口もバラエティ豊かです。
シリアスなストーリーもあれば、少しファンタジックなもの、くすっと笑える作品もあり、飽きることなく読み進めることができます。
同じ「卒業」というテーマでも、こんなに多くの表現方法があるのかと驚かされるはずです。
共感を呼ぶリアルな感情描写
どの物語にも共通しているのは、卒業を迎える瞬間の心の揺れを丁寧に描いている点です。
普段は口にできなかった本音、伝えきれなかった想い、最後だからこそ踏み出せる一歩──
青春時代に誰もが経験した、あの一瞬のきらめきや切なさが、胸に刺さります。
読みやすさと感動のバランス
1話ごとのボリュームは短めなので、気軽に読めるのも魅力です。
通学・通勤の合間や寝る前など、ちょっとした時間で読み進められますが、どの作品にも必ず心に残るフレーズやシーンがあるため、読後にはじんわりとした余韻が残ります。
「卒業」を迎える学生はもちろん、かつてその瞬間を経験した大人にも刺さるエピソードがきっと見つかるはずです。
④伊坂幸太郎『砂漠』
大学生活という長い青春の果てに訪れる卒業の重みを感じさせる青春群像劇
作品概要

『砂漠』は、伊坂幸太郎による青春小説で、大学生活4年間を描いた作品です。
舞台は仙台の大学。
個性的で魅力的な5人の大学生たちが、出会い、成長し、やがて卒業を迎えるまでの物語が綴られています。
キャンパスライフ特有のゆるやかさや、気の合う仲間と過ごす時間の楽しさが描かれる一方で、理不尽な出来事や社会の不条理とも向き合う、リアリティのある青春群像劇です。
「大学生活」という人生の特別な4年間を、伊坂幸太郎らしいユーモアとテンポの良さで魅せる名作です。
「卒業」というテーマの描き方

『砂漠』における「卒業」は、物語全体のクライマックスに位置づけられています。
物語の大部分は大学生活そのものを描いていますが、読者は最後に「卒業」という節目を迎えた時、これまでの4年間がいかに特別だったのかを実感する構成です。
「砂漠」のような何もない場所からスタートした大学生活が、仲間との出会いによって少しずつ色づいていく──
その過程を追体験することで、卒業がただの終わりではなく、かけがえのない日々を振り返る「証」のように感じられます。
また、大学生ならではの「いつまでも続くように思えていた時間が、突然終わる」という感覚もリアルに描かれています。
作品の魅力

キャラクターの魅力
『砂漠』を語る上で欠かせないのが、個性豊かな登場人物たちです。
クールな西嶋、飄々とした北村、謎めいた南、しっかり者の東堂、軽薄で女好きの鳥井。
それぞれの個性や価値観が絶妙に絡み合い、時にぶつかり、支え合いながら、大学生活を駆け抜けます。
「こんな友達がいたら楽しいだろうな」と思わせるキャラクター造形が、読者を物語に引き込む大きな要素です。
ユーモアとシリアスの絶妙なバランス
伊坂作品ならではの軽妙な会話劇やユーモアは健在ですが、『砂漠』ではそれだけにとどまりません。
大学生活という自由な時間の中で直面する理不尽や不条理、社会の不透明さ、未来への漠然とした不安など、大人への入り口に立つ若者のリアルな葛藤も丁寧に描かれます。
笑いながら読み進めていたはずが、ふと胸に突き刺さるような言葉に出会う──
そんな緩急のバランスが、本作の大きな魅力です。
「卒業」がもたらす余韻
物語のラスト、卒業を迎えるシーンでは、何気ない大学生活の一瞬一瞬が「もう戻らない日々」として特別な輝きを放ちます。
過ぎ去って初めて気づく日々の価値。
友人との出会いや別れ、無駄に思えた時間のすべてが、大人になるために必要な経験だったことが、静かな余韻となって読者の心に残ります。
学生生活を送る読者にとっては今を大切にするきっかけに、かつて学生だった大人には、もう戻れない青春を懐かしく思い出させてくれる作品です。
⑤重松清『空より高く』
不器用な生徒たちがそれぞれの事情を抱えながらも、卒業に向かって歩んでいく物語
作品概要

『空より高く』は、重松清が描く、ある地方の定時制高校を舞台にした青春小説です。
主人公は、昼は自動車工場で働き、夜は定時制高校に通う男子生徒、通称ネタロー。
定時制高校には、年齢も背景もバラバラな生徒たちが集まり、それぞれが「普通」の青春とは少し違う日々を過ごしています。
しかし、彼らもまた未来に不安を抱きながら、友情を育み、恋を知り、大切な何かを見つけていくのです。
卒業までの時間を通して描かれる、「まっすぐじゃない青春」の輝きと痛み。
重松清らしい温かな視線とリアルな筆致で紡がれる、胸を打つ物語です。
「卒業」というテーマの描き方

本作では、「卒業」は単なる学び舎からの巣立ちではありません。
それは、生徒たち一人ひとりが自分自身と向き合い、未来へ踏み出すための通過点として描かれます。
定時制高校に通う彼らの多くは、何らかの事情を抱えています。
家庭の事情、経済的な問題、過去の挫折──
「普通」の高校生活を送ることができなかった彼らにとって、「卒業」は「自分自身を誇れる瞬間」であり、「誰かに認めてもらう瞬間」でもあります。
卒業式という特別な場面だけでなく、そこに至るまでの努力や仲間との絆こそが、本作における「卒業」の本質です。
作品の魅力

「普通じゃない青春」のリアルさ
重松清は、華やかな青春ではなく、不器用で、傷つきながら進んでいく等身大の青春を描く名手です。
『空より高く』でも、夢や恋にまっすぐ突き進む生徒ばかりではなく、現実に押しつぶされそうになりながら、それでも少しずつ未来を見つめていく若者たちが登場します。
勉強や部活動だけが青春じゃない。
働きながら、悩みながら、それでも「卒業」に辿り着くまでの道のりそのものに、読者は胸を打たれるのです。
重松清ならではの温かな視線
登場人物たちの心の痛みや悩みを、重松清は決して突き放さず、寄り添うように描いています。
「頑張れ」だけではない、「頑張れなくてもいい」というメッセージが、読者の心に優しく染みわたります。
卒業という「区切り」が持つ意味も、きれいごとではなく、リアルな感情の揺れとともに描かれており、読み手に深い共感を呼びます。
涙と笑い、そして未来への希望
シリアスなテーマを扱いながらも、ユーモアや温かさが随所にちりばめられているのが本作の魅力です。
仲間とのバカ騒ぎ、先生とのやり取り、恋のほろ苦さ──
笑いと涙が交錯する日々を積み重ねた先に見える卒業式は、読者にとっても感慨深いシーンとなるはずです。
どんな背景を持つ生徒にも、卒業は「次のステージへ進むための扉」であることを、本作は静かに教えてくれます。
まとめ:「卒業」が教えてくれる、かけがえのない時間

卒業──
それは、人生の中で限られた瞬間にしか訪れない、特別な節目です。
新しい未来への期待と、不安や寂しさが入り混じる独特の時間――
今回紹介した5作品は、そんな「卒業」というテーマを軸に、青春のきらめきや、仲間との絆、時には痛みや後悔までを繊細に描き出しています。
朝井リョウ『少女は卒業しない』
卒業式という1日を多角的に切り取った群像劇
豊島ミホ『檸檬れもんのころ』
卒業間近の何気ない日常に忍び寄る切なさを描く
宇山佳佑うやまけいすけ・蒼山皆水あおやまみなみ 他『卒業 君がくれた言葉』
様々な作家が描く「卒業のかたち」を集めたオムニバス
伊坂幸太郎『砂漠』
大学生活という長い青春の果てに訪れる卒業の重みを感じさせる青春群像劇
重松清『空より高く』
不器用な生徒たちがそれぞれの事情を抱えながらも、卒業に向かって歩んでいく物語
どの作品も、卒業をただの通過点としてではなく、その瞬間を迎えるまでの葛藤や喜び、そしてそこから続く未来への希望までを描いています。
卒業は、何かを終わらせる日であると同時に、新しい自分へと踏み出す日。
だからこそ、「卒業」を描いた小説には、青春のきらめきだけでなく、大人になってから読むと、かつての自分を思い出させてくれるような普遍的な力があります。
春は別れと出会いの季節。
この3月、卒業を迎える人も、かつて卒業を経験した大人も、「卒業」をテーマにした小説を手に取って、人生の大切な一瞬を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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