想像力を掻き立てられる逃亡劇!『正体』信じたものの正体が揺らぐとき、人はどうするのか?【書籍レビュー】

人は自分が見たいものを見て、信じたいことを信じる。

だが、もしそれが誤りだったとしたら?

もし、自分が信じたものの「正体」がまるで違うものだったら?

染井為人(著)『正体』は、そんな「信じることの危うさ」と「人の視点の曖昧さ」に切り込む作品です。

少年死刑囚として死刑判決を受けた鏑木慶一(かぶらぎ けいいち)は、ある目的のために脱獄し、姿を変えて逃亡する。

彼に関わった人々は、やがて彼の“正体”に気づいていくが、それと同時に自分自身の価値観や信念とも向き合わざるを得なくなります。

本作は、単なる逃亡劇ではなく、「人が何を信じ、どう生きるか」を問う作品でもあります。

読み進めるうちに、「信じるとは何か?」「人の印象はどこまで当てになるのか?」と考えずにはいられないはずです。



オススメ度について
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作品概要

作品名正体
著 者染井為人そめいためひと
ジャンルサスペンス
発行日2022年1月12日
ページ数578ページ
あらすじ

埼玉で一家三人を惨殺し、死刑判決を受けた少年死刑囚・鏑木慶一かぶらぎけいいちが脱獄した。

逃亡を続ける彼は、東京オリンピックの工事現場、スキー場の旅館、新興宗教の集会、グループホームなど、さまざまな場所で身を隠す。

彼に関わる人々は、それぞれの人生を抱えながらも、慶一という男の「正体」と向き合うことになる。

彼は本当に殺人犯なのか? 彼の目的は何なのか?

人々の視点を通じて、逃亡犯の“正体”が浮かび上がっていく。


作品から学べる教訓・人生観(感想)

①「正体」とは何か?

本作のタイトル『正体』が示すものは、単なる逃亡犯の身元だけではありません。

鏑木慶一かぶらぎけいいちを取り巻く人々が、彼をどう見るか、どう解釈するか――

その「見え方」こそが、本作の大きなテーマになっています。

「人は自分が見たいものを見て、聞きたいことを聞く」。

これは、現実の社会でもよくあることです。

誰かの発言や行動も、受け取る側のフィルターを通じて解釈されます。

優しさに見えるものが策略かもしれないし、冷酷な態度が実は善意から生じていることもあります。

鏑木慶一は、そんな「視点の揺らぎ」を体現する存在なのです。

読者もまた、彼を「本当に殺人犯なのか?」と疑いながら読み進めることになるはずです。

②「正体」を知ったとき、人はどうするのか?

逃亡中の慶一は、関わる人々に様々な影響を与えます。

そして彼の「正体」に気づいたとき、人々は驚き、恐れ、時には信じたい気持ちと現実の間で揺れます。

特に印象的なのは、「慶一を信じた人々が、その信念を揺さぶられる場面」です。

「この人は悪い人じゃない」と思っていたのに、それが崩れたとき、人はどうするのか?

その葛藤が、登場人物一人ひとりの生々しいドラマとして描かれていきます。

これは、現実社会にも通じるテーマです。

「信じていた人が違った」「思い込んでいたことが間違いだった」と気づいたとき、人はどう生きるのか。

この問いを、本作は静かに突きつけてきます。


なぜこの作品がオススメなのか

①視点の変化が生むスリリングな展開

本作は、各章ごとに視点が変わります。

そのため、章の序盤では新しい語り手の背景や状況に慣れるまで少し時間がかかりますが、その視点の変化こそが、本作の最大の魅力です。

そして慶一自身の気持ちは最後まで描かれず、すべてが「他者から見た慶一」の姿で語られます。

そのため、読者は彼の本心を想像しながら読み進めることになります。

読みながら感じる「本当の彼はどんな人間なのか?」という問いが、最後まで読者を引きつけるのです。

②偏見と先入観を問う物語

社会は、逃亡犯のような「悪」とされた人物に対して、一方的な目を向けがちです。

「殺人犯だから危険」「逃亡者だから信用できない」というレッテルが貼られ、個人の本質は見えなくなるのです。

しかし、本作では慶一と関わる人々が「彼は本当にそうなのか?」と悩む姿が描かれます。

偏見がどのように形成されるのか、そして、それを乗り越えられるのか――

この点が、本作を単なる逃亡劇ではなく、より深い人間ドラマにしています。


総評・まとめ

『正体』は、単なるサスペンス小説ではなく、「人間の信じる心」と「視点の揺らぎ」を描いた作品です。

鏑木慶一かぶらぎけいいちという謎めいた存在を通じて、読者もまた「何を信じるか?」という問いを突きつけらることでしょう。


正体』のオススメ度は⭐4です!

完成度が高く、このジャンルが好きならより楽しめる作品。


こうよう
こうよう

スリリングな展開と、心理描写の巧みさによって、長編ながらも飽きることなく読み進められます。
ただ、各章ごとに新しい視点に切り替わるため、序盤は少しスローペースに感じるかもしれません。

パン
パン

最後まで慶一の視点で物語が描かれないことにより、読後も強い余韻を残していると思う。


こんな人にオススメ

  • 心理サスペンスが好きな人
  • 「信じること」について考えさせられる作品を求めている人
  • 登場人物の心理描写をじっくり楽しみたい人
  • 現代社会の偏見やメディア報道に疑問を感じたことがある人

『正体』は、単なる逃亡劇にとどまらず、「信じることの難しさ」を描いた作品です。

読み終えたあと、自分の「信じるもの」について考えさせられる一冊となることでしょう。



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